いきなりで恐縮ですが、私は6月が嫌いです。
この時期、商社マン社員100名に向けて、対面式の講師を務めなければならないからです。
あがり症の私には、死ぬか生きるかの問題です。
話しの発端は、4月中旬のある日にさかのぼります。
終業後に上司がいそいそと私に近づいてきて、「はぶくん、ちょっといい?」と声をかけてきました。
ギクッ・・・!
「はぶくん、今年も社内講師やってくれる?」
ド、ド、ドーン!
はぁぁぁぁぁ~(深いため息)。心の準備はどこかでしてはいましたが、「今年も私がやるのか…」と、暗澹とした気持ちになりました。
私があがり症だと書きましたが、書き直します。私は極度のあがり症です。
高校生の時、授業で英語のフレーズを起立して読まされたりしますよね。私はそれがとても苦手でした。ただ読むだけ、にもかかわらずです。
声は震え、顔は上気し、脇からポタポタと汗が出るくらい重度なあがり症でした。当時の私はクラスのみんなから、自分の一挙手一投足に少しでもおかしいところがないか、観察されている気分でした。お前が一瞬でもあがるのを見逃さないぞと。
もちろん、実際にはそんなことはありません。
当時は、そんな私が壇上に上がってプレゼンするなんて、考えることもできませんでした。
あれから四半世紀が過ぎ、多少の講義やプレゼンはこなせるようになりました。社会人になって人前での発表の場は増えるので、ノウハウはだいぶ身につけました。しかし、いまになってもプレゼンや講師は、大の苦手です。
さて、上司から講師役を告げられた3月中旬以降は、朝起きるたびに「あぁ、5月はプレゼンなんだ。失敗したらどうしよう」とか、「もうやだ死にたい…」そんな気持ちになっていました。約2か月間、これは本当に辛い期間です。
そんな私が、どうやって講義を乗り切ったかを書いてみたいと思います。
きっとこのページにたどり着いた方の中に、プレゼンや対面講義が得意という方は、いないのではないかと思います。
ちょっとしたヒントを提供できたなら、そこに私が提供できる価値があるのかなと思います。
ちなみにこのブログを書いているいまは、なんとか講義も無事に終わり、穏やかな気持ちで毎日を過ごしています(講義の前なんて、書けるわけありません)。
前置きが長くなりました。
結論です。
簡単にいうと、1に練習、2に練習、3に練習。準備に勝るものはないと断言できます。
それでは、私がどのように練習をしたか、「2週間前~」と「当日」に分けて見ていきましょう。
2週間前から
- まずは1人で練習
- 家族の前で5回模擬講義を行う
- 毎朝発声練習
1つめ。まずは資料を暗記するくらい見ていきましょう。
あなたが紙で印刷した当日用のテキストは、赤ペンのメモで余白が埋め尽くされていきます。それでいいのです。美しく汚されたテキストこそが、努力の跡です。
分かりづらいところはないか、論理のねじれはないか(首尾一貫しているか)を、ペンを入れながら見ていきます。
それが完了したら、本番だと思って読んでいきます。すると、どこかで言葉がつっかえたり、「あれ?ここの表現、なんか繋がりがおかしいな」と気づく部分があるはずです。
ペンを入れただけではだめなのですね。そういうところを直しながらやっていきます。
他人が作った資料を使わなければいけない時もあります。他の人が作った資料って、使いづらいですよね。
資料を修正する余地がないのであれば、仕方ないとあきらめましょう。大事なのは、「自分の言葉で言い換えること」、「平易な言葉で表現すること」です。私のやる(やらされる)講義も、やたら文字が多かったり、難しい表現が使われていたりします。
小さな子どもでも理解できるように、簡単な言葉で語りかけるようにします。時間配分を考えて、1人で講義の練習を3回、本番のつもりでやってみます。ここまでやると、だいぶペースがつかめているはずです。
そこまでできたら2つめです。ここが超大事です。
「家族や友人の前で5回模擬講義を行う」
本当に大切なことなので、もう一度言います。
「家族や友人の前で5回模擬講義を行う」
なぜ必要か?それは、「聴衆からの反応」があるからです。話したことに笑ってくれたり、逆に退屈そうにしていたり。この部分が分かりづらかった、なんてフィードバックがあればしめたものです。分かりやすく修正していきます。
そしてなにより、生身の人間を相手に話しているおかげで、度胸が付きます。家族といえど、プレゼンや講義を見せるのは、緊張しますよね。なんだか気恥ずかしいものです。
そして、この模擬プレゼン or 模擬講義を5回やりましょう。3回で軌道に乗り、5回で自分のものになります。この頃には、台本もほとんどいらなくなっているはずです。
一人暮らしでしたら友人にお願いしましょう。友人がいなければ、観葉植物やペットに向けてでもいいでしょう。事実、元オリラジの中田敦彦さんが、ペットでもいいと仰っていました(笑)。
講義当日
それでは、いよいよ当日です。
私がプレゼン・講義当日にやっていることをご紹介します。
- 家族の前で最後の模擬講義
- 家を出る前に、3回発声練習
- 先人の言葉を唱える
- 15分前に会場に入り、雰囲気に慣れる
家族の前で最後の模擬講義
当日の朝、最後につき合ってもらいましょう。家族が誰も聴いていなくてもいいです。総仕上げだと思って、最後の模擬講義を実施します。
この時に大事なのは、講義・プレゼンへの入り方を強く意識することです。プレゼンの緊張のピークは最初です。自己紹介や本日の講義の目的、ゴールの説明。
ここで流れに乗れればしめたもの。あとは、流れで大丈夫。いままでの練習がものをいいます。
家を出る前に、3回発声練習
お腹から声を出すために、当日の朝は発声練習を3回しましょう!
北原白秋の詩、「あめんぼのうた」が最適です。
あめんぼ あかいな あいうえお(水馬 赤いな あいうえお)
北原白秋 「あめんぼのうた」
うきもに こえびも およいでる(浮藻に 小蝦も 泳いでる)
かきのき くりのき かきくけこ(柿の木 栗の木 かきくけこ)
きつつき こつこつ かれけやき(啄木鳥 こつこつ 枯れ欅)
ささげに すをかけ さしすせそ(大角豆に 酢をかけ さしすせそ)
そのうお あさせで さしました(その魚 浅瀬で 刺しました)
たちましょ らっぱで たちつてと(立ちましょ 喇叭で たちつてと)
とてとて たったと とびたった(トテトテ タッタと 飛び立った)
なめくじ のろのろ なにぬねの(蛞蝓 のろのろ なにぬねの)
なんどに ぬめって なにねばる(納戸に ぬめって なにねばる)
はとぽっぽ ほろほろ はひふへほ(鳩ポッポ ほろほろ はひふへほ)
ひなたの おへやにゃ ふえをふく(日向の お部屋にゃ 笛を吹く)
まいまい ねじまき まみむめも(蝸牛 ネジ巻 まみむめも)
うめのみ おちても みもしまい(梅の実 落ちても 見もしまい)
やきぐり ゆでぐり やいゆえよ(焼栗 ゆで栗 やいゆえよ)
やまだに ひのつく よいのいえ(山田に 灯のつく よいの家)
らいちょうは さむかろ らりるれろ(雷鳥は 寒かろ らりるれろ)
れんげが さいたら るりのとり(蓮花が 咲いたら 瑠璃の鳥)
わいわい わっしょい わいうえを(わいわい わっしょい わゐうゑを)
うえきや いどがえ おまつりだ(植木屋 井戸換へ お祭りだ)
これ、本当に声が出るようになります。あと、滑舌も相当よくなります。私はサ行の発音が苦手なので、「ささげにすをかけ…」あたりを練習すると、明らかに違いが分かります。
緊張状態にある人は、横隔膜の動きが悪いそうです。大きな声ではっきりと発声練習をして、当日に臨みましょう。本当に違いが分かります。
先人の言葉を唱える
次に、先人の言葉を唱えて、自分を安心させましょう。
私がいつもプレゼンや講義の直前につぶやいている魔法のおまじないです。
唯一のアドバイスは、人前に出ていくと「恥ずかしい」とか、やっぱり人間だから「いいカッコしたい」っていうのが出るんだよ。それさえ捨てりゃラクだよ(笑)。
岡本順子 『世界最高の話し方』
よく分かる!という方、多いんじゃないでしょうか。プレゼンで失敗したら人生終わり。プレゼンや講義に対して、一事が万事のようなイメージを抱いている方は多いのではないでしょうか。
自分を落ち着かせてくれる言葉を見つけておくことも、人前に立つうえで大切なことの1つです。
15分前に会場に入り、雰囲気に慣れる
最後はこれです。15分前に会場に入り、雰囲気に慣れておくことです。
会場は、基本的にはアウェイです。入社後1ヵ月が経過した新入社員たちは、みんな仲良しに見えます。自分が浮いた存在にも思えてきます。
ですが、それで構いません。これから実施するプレゼンの準備を、淡々と進めましょう。
マイクをテストする。モニターのスライドが正確に機能するかを見てみる。これだけでだいぶ落ち着いていきます。
あがり症の人は、イレギュラーな対応が特に苦手な傾向があります。早く会場に入り、淡々と準備をすることで心を調えましょう。周囲のノイズを気にする必要はありません。
最後にもう一度、プレゼンの前に心の支えの言葉(私でいえば豊田章男さんの言葉)を心の中で唱えたら、あとは、第一声に備えるだけです。
「みなさんこんにちは! 貿易事業部の小橋と申します!」
最後にまとめです。
2週間前~ やること
- まずは1人で練習
- 家族の前で5回模擬講義を行う
- 毎朝発声練習
当日にやること
- 家族の前で最後の模擬講義
- 家を出る前に、3回発声練習
- 先人の言葉を唱える
- 15分前に会場に入り、雰囲気に慣れる
どうか私のようなあがり症のみなさんが、無事に講義やプレゼンを終えられますようにーー。心より応援しています。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
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