初めにーー。私は中小企業診断士の資格ホルダーです。
資格取得までにかかった年月は9年間です。小学校入学から中学校卒業までに等しい期間ですよね。長いでしょう? 1つの資格を取得するために私は、それだけの時間を費やしたのです。人生の約10%もの期間を捧げたのです。
でも、いまは持っているだけで何の活動もしていません。その詳細は、また別のところで書いてみたいと思います。
さて、ここでは9年間をかけて難関資格を取得した私が、実際に約2年間活動をしてみて感じたメリットとデメリットを3つずつ挙げてみたいと思います。
メリット
自分に自信がついた
自信がついた。私の場合は、これが一番大きいです。
卑下するわけではないのですが、私は中堅私大卒です。勤務先の商社の中では、国立、私大の最高峰の人たちがウヨウヨいます。しかもなぜか〇〇大△△部主将など、文武両道系が多いこと、多いこと。
正直、心のどこかで学歴に対する多少の負い目は感じていました。
そんな私が社内の誰かに対して、「中小企業診断士の資格を取りました」なんて言うと、
「マジですか?!」
「えっ! あの難しい資格取ったの?! すごいね!」
なんて反応が返ってきます(笑)。商社の「頭のいい人たち」や「できる人たち」の中にいても、高い評価を得ることができる資格ということです。
私は中小企業診断士の資格をあまりおおっぴらにはしていません。人に認められるために資格を語る必要はない。誇るつもりもありません。自己啓発に興味がある同僚に少し話した程度です。
心理学者のアドラー的に言うのであれば、承認欲求はゴミ。つまり、自分の価値を認めるために「人の評価なんて必要ない」ということでしょう。ここには心から同意します。
でもねーー。私はこうも思います。人と人とは合わせ鏡。他者の言葉や反応などがあって、初めて知ることのできる自分もいます。
- あ、自分がやったことって結構すごいんだ
- こんな頭のいい人たちからも評価される資格なんだ
他者というフィルターを通して、はじめて自分が分かる。こんな気づきだってあるのです。
少し話は飛びますが、私は青春期を無為に過ごしました。本当に何もせずに過ごした人間です。
高校時代は友達もおらず、ただ家と学校を往復するだけの無味乾燥な日々。大学時代はまったく周囲になじめず、2年間休学しました。勇ましいバックパッカーなどではありません。完全に不登校の状態でした。
そんな私が、その後の人生の一時期に時間と財をひたすら投入し、難関と呼ばれる中小企業診断士資格を取った。そしたら、こんな頭のいい人たちから評価されたーー。それは自分にとって驚きでもあり、また喜びでもありました。
自分の立ち位置を知るために、人の評価は時として有益。特に、自分に自信がない人にとっては。私は、そういう側面があったっていいじゃないかと思います。
私にとって、この資格を取得したことは、「自信そのもの」です。この薄暗く冴えない人生の中で、何物にも代替しがたい、唯一自分が努力して勝ち得たもの。
そう、私は9年間という歳月をかけて、自信を買ったのでした。
資格保有者にしか属せないコミュニティに入れる
前節では、少し悲しい話にもなってしまいましたね(笑)。いいのです、自分を客観的に見ているだけですから。話を戻しましょう。
どんな資格でもそうだと思いますが、保有者のみが属するコミュニティというものがあります。中小企業診断士も然り、です。そこを通じて、様々な人たちと出会うことができる。これは間違いなくメリットといえるでしょう。
だって、付き合う人って、人生における財産でしょう? 付き合う人の質が高いと、自ずと自分を高めてくれるからです。
中小企業診断士には、たとえば下記のようなコミュニティがあります。
各都道府県の中小企業診断士協会
診断士資格を取得すると、多くの人たちは各都道府県にある「診断士協会」に属することになります。春と秋には、あたかも新入生歓迎の大学生よろしく、新入診断士諸氏の勧誘活動が、全国各地で盛んに行われます。
そこに所属すると、各種の研究会に参加したり、「プロコン塾」といったガチのプロコンサルタントになるためのセミナーにに、リーズナブルな受講料で参加することができます。
また、挨拶代わりに自分の専門性をプレゼンしたり、裏方の仕事を一生懸命手伝ったりすることにより、ポロっと副業のお話をいただけたりもします。
中小企業診断士専用のライター養成スクール
「取材の学校」という、中小企業診断士のみを受講対象にしたスクールがあります。私はそこに通っていました。
そこでは大きく分けて、次の2つのことができます。
- 3か月間かけて、みっちり取材のイロハが学べる
- 編集者とのコネクションができる
- 実際に商業誌で何本か記事を書かせてもらえる(人による)
プロのライターや商業誌の編集長から取材やライティングの要諦を学びます。課題は辛く、多いですが、かなりタメになります。プロが自分のダメダメなライティングを添削してくれるのですからね(笑)。
私も例に漏れず、取材も幾つかこなし、編集者とのコネクションもできました。
このような形で、中小企業診断士のみが属するコミュニティに所属できることは、メリットといえます。一定のレベルが担保され、洗練されたコミュニティに所属することは、間違いなく自分の財産になります。
人脈が爆増する
この資格の際たる特徴でしょう。人脈が爆発的に増えることも、一般的にはメリットといえるかと思います。
私の中小企業診断士の友人が、ある時この資格をとても上手に形容したことがあります。
中小企業診断士の資格って、競争よりも協業ですよね
独占業務がないゆえに、とても裾野が広い資格です。だからこそ、1人では中小企業1社の支援すらまかなえないことがある。いえ、むしろそれが普通(らしい)です。あいつには勝つぞ! 同期に負けるもんか! なんて気持ちでいたら、ダメなんです。
企業には、たくさんの問題があります。たとえば、資金調達(カネ)、人事・採用(ヒト)、DX化(情報)など、問題は複雑に絡み合い、複合的に存在します。だからこそ、それぞれの分野のエキスパートが必要で、そうした人たちと協業するための信頼関係を深めておく必要があるのですね。
ゆえに、中小企業診断士にとって人脈形成は極めて大切です。
ただし、後述しますが、放っておいても知り合いは爆発的に増えるので、選別することがもっと大切です。いたずらに増やすよりも選別すること。量よりも質を担保することです。人脈においても「選択と集中」が大切なのですね。
デメリット
選択と集中をしないと、すぐに燃え尽きる
これ、実は他でもない私のことです。マネタイズもできずに体力、精神力、時間を浪費。大失敗しました。付き合う人においても、参加するコミュニティにおいても、選択と集中ができていなかったからです。
先ほどメリットのところでコミュニティや人脈について触れましたね。でもそれ、裏を返すとデメリットにもなるのです。
どういうことかーー?
中小企業診断士の世界って、本当にいろいろなコミュニティが存在します。そしてそこには、本当に様々な属性の人たちがいます。企業組でいえば、テレビ局、新聞社、メーカー、運輸、商社マン。独立組でいえば、弁護士、会計士、弁理士、税理士、etc。
そんな新しい世界を垣間見ると、資格を取ったばかりの人はハイになっちゃうのですね。私、恥ずかしながら本当にこの状態でした。目についたコミュニティには顔を出し、飲み会にも参加し、名刺交換。研究会では自己紹介や、自分の仕事のプレゼンとかもしちゃいました。しかも結構資料を作り込んで(笑)。
内向的な性格なのに、よくやったものです。
でも、ある時ようやく気づくのです。
あれれ? 自分、全然マネタイズできてないじゃん…!
そして、ある週末の朝、起きられなくなりました。その日の午前中から研究会があったのに、どうしても起きられない。
気持も、身体も、ボランティアのような活動で疲れてしまったのです。
- 増えていたのは人脈ではなく、知り合い、顔見知り。
- やっていたのは、副業ではなく、無償の自己研鑽。
そう思った時、それまでの中小企業診断士の活動が、徒労に思えてきました。そして、深いメンタルダウン。
後から聞くと、こういう方って結構多いらしいのです。無償活動で燃え尽きてしまい、せっかく取得した難関資格を生かせず灰になっていく人がーー。
私、メンタルが復帰するのに9カ月くらいかかりました。いまではようやくブログを書けるくらいには復活しています。しかし、本当にしんどかった。
維持費がかかる
他の士業に比べると安いものだそうです。でも、お金はかかります。目に見える費用と目に見えない費用(隠れ費用)について書いてみます。
目に見える費用
ほとんどの人にとってかかる費用は、登録費用と資格更新費用です。
資格所有者の多くの割合を占めるのは、会社員。仕事を持っています。ツテも人脈もないその人たちは、たいてい中小企業診断士協会に入会します。副業を紹介してもらったり、人脈を築いたりするためです。ちなみに加入は任意なので、協会に入らない人たちも一定数はいます。
さて。細かな計算は抜きにして、協会の加入員が5年間に支払う「目に見える費用」は以下の通りです。
- 入会金:5万円/年 x 5年=約25万円
- 年会費:4~5万円程度/年 x 5年=約25万円
- 理論政策研修費:6千円/回 x 5回=3万円
だいたい5年間で53万円。年間10万円ほどかかるという計算ですね。これを高いと考えるか安いと考えるかは、その人の価値観次第や、コストに対して得られるリターンの程度次第、といったところでしょう。
目に見えない費用
一方で、「目に見えない費用」もあります。投資信託でいうところの「隠れコスト」みたいなものですね。
たとえば下記の項目がそれです。
- 交通費
- 任意受講の講座費用
- 飲み会などの交際費
- 打合せなどの会議費
私の場合は月に2~3回、なんらかの会合に出ていました。新人診断士の会、他には共通の目的を持った研究会などです。たとえばIT研究会、商店街支援研究会、国際化研究会なんていうものがあります。
電車や車での交通費が生じますし、食事や飲み会などの飲食代(接待交際費)もかかります。
1度こうした飲み会に出席すると、だいたい1回あたり5~6千円くらいかかります。2次会に行けば1日に1万円は軽く飛んでいくでしょう。これを人脈形成、ないしは仕事を取るための必要コストと考えるかは、その人の価値観次第ですね。私はそう割り切れなかった。
あとは、中小企業診断士による、中小企業診断士のための有料講義もあります。ベテラン診断士が、新米診断士をターゲットに各種の講義を提供するのですね。こうした費用は、だいたい1回5千円くらいでしょうか。新米は何かと物入りです。
月に2回ほど何らかの活動に参加し、飲み会にも顔を出す。さらに月に1回、自己啓発セミナーに励んだ場合、月にかかるコストは、3~4万円程度です。なかなかの金額でしょう? 家族でいいもの食べられると思いませんか?
そうすると、目に見えない隠れコストは、年間40万円前後ということになります。人づきあい(ヒト)にも、自己研鑽(コト)にも、お金はかかるのですね。
そして、時間。時は金なりーー。人づきあいも自己研鑽のための講座もたくさん選ぶことができます。それは確かにこの資格の醍醐味です。
しかし、全ての人やセミナーの品質が担保されているわけではありません。程度の差こそあれ「玉石混交」という場合もあることは、心に留めておく必要があります。
結局は労働集約型の仕事
ある時、気づいたことがあります。「この仕事って、結局時間の切り売りなんじゃね?」とーー。
会社員が嫌で嫌で、勢い独立する人っているんですよね。私の友人にもいました。
「独立」。これって甘美な言葉じゃありませんか? でも、そこには罠があります。
ロバート・キヨサキ氏の『金持ち父さんのキャッシュフロー・クワドラント』を読まれた方も多いと思います。その一説に、こんな4象限が出てきます。
ご存知の方は多いでしょう。E は Employee(従業員)、S は Self Employee(自営業)、B は Business Owner(ビジネス所有者)、I は Investor(投資家)です。
細かな説明は割愛しますが、多くの人は象限の左側、つまりE と S の象限にいます。労働力を切り売りしている人たちですね。
一方で、一握りの人は右側の B と I の象限に行きます。不労所得を手にした、使役する側の人たちです。FIREした人なんかもそうですね。
言いたいことは、独立という甘美な言葉に誘われ、晴れて独立しても、結局は 左側の S =自営業者 なのです。労働力を担保に働くという意味では、E = 労働者(会社員)と何ら変わりません。
私が見てきた中小企業診断士の方々は、ほとんどがこの S の人たちでした。非常に優秀にも関わらず、です。この S のゾーンでガンガン仕事を受けて稼げたとしても、年収は1,000 ~ 1,500万円と聞きます。
会社員の身としてはなかなか手の届かない、垂涎の額ですが、身を粉にして働くという意味では、会社員よりもよほどシビアかもしれません。
私の知り合いの独立診断士の先生で、このような方がいました。仕事を受けに受けまくって、ある時身体が動かなくなり、救急車で運ばれて点滴。1ヵ月間の入院を余儀なくされました。病床から友人の中小企業診断士に電話をかけまくり、手元にあった仕事を何とか分業し、捌いてもらったそうです。一人では限界があるのですね。
労働集約型の仕事から抜け出すためには、右側の象限に回らなければなりません。ビジネスの所有者や投資家は、自らの労働力を切り売りする必要はありません。ビジネスの仕組み、あるいはすでに所有している資産がお金を稼いでくれるのです。
まとめ
メリット・デメリットをまとめるとこんな感じです。
メリット
- 自分に自信がついた
- 資格保有者にしか属せないコミュニティに入れる
- 人脈が爆増する
デメリット
- 注意しないと廃人になる
- 維持費がかかる
- 結局は労働集約型の仕事
皆さんの中小企業診断士としての活動が、選択と集中により、素晴らしいものになりますように。どうか私のような失敗をする人が1人でも減りますようにーー。
そう願ってやみません。
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